Classici giapponesi con furigana
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えのきものがたり
榎物語
山本 周五郎
Leggi 榎物語 (えのきものがたり) di 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 33.519 caratteri · 67 schermate
さわもその事実に、おどろいたようすを隠さなかった。彼女もその日までずっと、彼の姿をはなれたところから見まもり、どんなつまらない噂をも耳にとめていたのだ。こうして二人で口をきくのは二度めであり、初めてのときから今日までに、七百幾十日も過ぎ去っているということが、まるで嘘のように思えるのであった。そのようにさわのおどろいている気持が、国吉には触れてみることのできる物のように、はっきりとわかった。
「どうかしたのですか」と彼はまえより親身な気持になって訊いた、「なにか泣くほど辛いことでもあるんですか」
さわは恥ずかしそうに、顔をそむけながら、そっとかぶりを振った。
「本当になんでもないの」と彼女は囁き声で云った、「ときどき泣きたくなるとここへ来るのよ、心配しないで」
国吉はその夜よく眠れなかった。ここは山ぐにで、秋にはいると夜はかなり冷える。掛け夜具を二枚にしても隙間風がはいるため、夜具の中へちぢまって眠らなければならない。山は朝ごとに霜で冰り、まもなくそれが里へとくだって来るだろう。にもかかわらず、国吉は寒さを感じないだけでなく、頭の中も躯の芯も熱っぽく、掌や脇の下は汗で濡れるくらいだった。