Classici giapponesi con furigana
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えのきものがたり
榎物語
山本 周五郎
Leggi 榎物語 (えのきものがたり) di 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 33.519 caratteri · 67 schermate
さわは眼をあいて父を見、右手を差出して云った。
「その手紙をいただきます」
半左衛門は黙ってさわを睨んでいた。
「折竹村へでもどこへでもゆきます」さわは片手を前に出したまま云った、「――でもそれは、あたしに来た手紙ですから、あたしがいただきます」
「おまえ」と半左衛門が云った、「自分がなにを云っているのかわかっているか」
「その手紙をいただきます」
半左衛門は机の上から手紙を取り、それをずたずたに引裂いた。さわは父にとびかかった。半左衛門はさわを突き放し、裂いた手紙をさらにこまかく千切ってから、それを手の中でまるめ、倒れているさわの上へ投げつけた。
「さあ持ってゆけ」と半左衛門が云った、「それを持って出てゆけ、おまえなどは見るのもいやだ」
さわは静かに起き直り、裂いてまるめて投げだされた物は見もせず、自分の部屋へ去った。
風も雨も弱まるようすはなかった。百余年まえに建てたという、この頑丈な建物も、柱や梁がきしみ、雨戸は鳴り、あるとも思えなかった隙間から吹き込む風で、他の部屋の奥にあるさわの部屋でさえ、行燈の火がいまにも消えそうに揺れまたたいた。もっと荒れるがいい、とさわは思った。