Classici giapponesi con furigana
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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
Leggi 樅ノ木は残った (もみノきはのこった) di 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 145.078 caratteri · 285 schermate
ここはお引取り下さい」
「わかった」甲斐は頷いて云った、「そのほうのことはなにも覚えていない、しかし気遣ってくれたことには礼を云おう、有難かった」
そして甲斐は踵を返した。
湯島へ帰る駕籠の中で、甲斐は幾たびも深い溜息をついた。眼に見えない時の動きと、人の心のどうしようもない変化。その二つのものが、じかに、肌へ触れるほど鮮やかに感じられた。時の勢いの動きには、人間の意志を超えたなにかの力が作用しているようだ。人の心はその動きにつれて変化する、わかりきったことだ。歴史はそういうことを繰り返して来たし、これからも同じような繰り返しを続けてゆくだろう。
「そうむきになるな」と甲斐は呟いた、「おれはいま兵部の一味として、伊達家中ばかりでなく、世間の多くから非難の眼で見られているという、だがこれは、初めから自分で承知していた筈だ、涌谷と松山(茂庭周防)とおれとで合議をしたとき、おれはこの席に坐ったのだ、家中の若者たちから覘われるのも、いまに始まったことではない、あの七十郎でさえ去っていったではないか」
「しかしこの虚しさはなんだろう」と甲斐は暫くしてまた呟いた、「自分でこうなることを望んでいたのに、いま非難の注目をあびているということで、こんなに虚しくもの淋しい気分になるのはどういうわけだろう」