Classici giapponesi con furigana
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すいごういぶん
水郷異聞
田中 貢太郎
Leggi 水郷異聞 (すいごういぶん) di 田中 貢太郎 (たなかこうたろう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 17.516 caratteri · 36 schermate
「かえって、係累がなくって気楽ですね」
「気楽は気楽ですけれど、淋しゅうございますわ、だから今日のように、我ままを申すようなことになりますわ」
「こんな仙境のような処なら、これから度たびお邪魔にあがりますよ」
省三はもう酔っていた。
「今晩もこの仙境でお泊りくださいましよ」
牡丹の花の咲いたような濃艶な女の姿が省三の眼前にあった。
「そうですね」
「私の我ままをとおさしてくださいましよ」
女の声は蝋燭の燈のめいって往くようなとろとろした柔かな気もちになって聞えて来た。省三は卓に両肘を凭せて寄りかかりながら何か云ったが聞えなかった。
女は起って己の着ている羽織を脱いで裏を前にして両手に持って省三の傍へ一足寄った。と、廊下の方でぐうぐうと蛙とも魚ともつかない声が数多の口から出るように一めんに聞えだした。女は厭な顔をして開けてある障子の外を見た。今まで月と水が見えて明るかった戸外は、真暗な入道雲のようなものがもくもくと重なり重なりしていた。
「ばかだね、なにしに来るのだね、ばかなまねをしてると承知しないよ」
女は叱るように云った。それでもぐうぐうの声は止まなかった。