Classici giapponesi con furigana
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きつね
狐
永井 荷風
Leggi 狐 (きつね) di 永井 荷風 (ながいかふう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 9770 caratteri · 20 schermate
母はなぜ用もない、あんな地面を買ったのかと、よく父に話をして居られた事がある。すると父は崖下へ貸長屋でも建てられて、汚い瓦屋根だの、日に干す洗濯物なぞ見せつけられては困る。買占めて空庭にして置けば閑静でよいと云って居られた。父にはどうして、風に吠え、雨に泣き、夜を包む老樹の姿が恐くないのであろう。角張った父の顔が、時としては恐しい松の瘤よりも猶空恐しく思われた事があった。
或る夜、屋敷へ盗棒が這入って、母の小袖四五点を盗んで行った。翌朝出入の鳶の者や、大工の棟梁、警察署からの出張員が来て、父が居間の縁側づたいに土足の跡を検査して行くと、丁度冬の最中、庭一面の霜柱を踏み砕いた足痕で、盗賊は古井戸の後の黒板塀から邸内に忍入ったものと判明した。古井戸の前には見るから汚らしい古手拭が落ちて居た。私は昔水戸家へ出入りしたとか云う頭の清五郎に手を引かれて、生れて始めて、この古庭の片隅、古井戸のほとりを歩いたのであった。古井戸の傍に一株の柳がある。半ば朽ちた其幹は黒い洞穴にうがたれ、枯れた数条の枝の悲しげに垂れ下った有様。それを見ただけでも、私は云われぬ気味悪さに打たれて、埋めたくも埋められぬと云う深い深い井戸の底を覗いて見ようなぞとは、思いも寄らぬ事であった。