Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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わなにかかったひと

罠に掛った人

甲賀 三郎

Leggi 罠に掛った人 (わなにかかったひと) di 甲賀 三郎 (こうがさぶろう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 10.112 caratteri · 21 schermate

Aozora Bunko

一

もう十時は疾くに過ぎたのに、妻の伸子は未だ帰って来なかった。

友木はいらいらして立上った。彼の痩こけて骨張った顔は変に歪んで、苦痛の表情がアリアリと浮んでいた。

どこをどう歩いたって、この年の暮に迫って、不義理の限りをしている彼に、一銭の金だって貸して呉れる者があろう筈はないのだ。それを知らない彼ではなかった。だから、伸子が袷一枚の寒さに顫えながら、金策に出かけると云った時に、彼はその無駄な事を説いて、彼女を留めた。然し、伸子にして見ると、このどうにもならない窮境を、どうにかして切抜けたいと、そこに一縷の望みを抱くのにも無理はなかった。で、結局友木は無益な骨折と知りながら、妻を出してやる他はなかった。そうして、結果は彼の予期した通り、妻はいつまで経っても帰って来ないのだった。彼女は餓と寒さに抵抗しながら、疲れた足で絶望的な努力を続けているに違いないのだ。

彼は可憐な妻が、あっちで跳ねつけられ、こっちでは断わられ、とぼとぼと町をさまよい歩いている姿を思い浮べたが、それはいつとはなしに、狐のように尖った顔をした残忍そのもののような高利貸の玉島の、古鞄を小脇に掻い込んで、テクテク歩いている姿に変った。