Classici giapponesi con furigana
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ききがきしょう
聞書抄
谷崎 潤一郎
Leggi 聞書抄 (ききがきしょう) di 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 108.821 caratteri · 210 schermate
乳母がおどろいたのは、今の話を聞かれたと思う憂慮のためばかりではない、あまり突然に音もなく寄って来て、人に物を尋ねるにしては不躾なほど近い距離に立ち止まったからである。此方の顔を見られまいとするために相手の顔も見ることは出来ないので、その人の風態は分らぬけれども、よぼ/\した力のない足取りと皺がれた声とが、老人を想像せしめるのであった。
「もし、お女中、卒爾ながらお身たちは、治部殿の御首を拝んでおいでなされたのでござりましょうな」
そう云ってもまだ答えがないので、人影は重ねて云った。
「―――それはお尋ね申さぬでもようござります。だがその御首は何処に、孰方の方角を向いてござるか、教えて下さりませ。のう、お女中、見らるゝ通り愚僧はめくらでござりますが、あやしい者ではござりませぬ」
さては盲目の法師なのか。いや/\、めくらを装って油断をさせ、此方の人体を見とゞける所存ではないのか。何処から来たものか知れないけれども、めくらが一人でこんな時刻にこんな所へ来られるであろうか。乳母は半信半疑なので、娘をうしろへ庇うようにして、その声の主を振り仰ぐと、淡い月光を浴びながら、ひどく薄汚いなりをした一人の乞食のような男が杖をついて立っていた。