Classici giapponesi con furigana
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にせもの
贋物
葛西 善蔵
Leggi 贋物 (にせもの) di 葛西 善蔵 (かさいぜんぞう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 21.476 caratteri · 43 schermate
五
「そうだ。……僕もこれさえ書けたらねえ。何しろ僕もその時分はひどい生活をしていたんだからね。希望も信仰も、また人道とか愛とかいうようなことも解らなかったし、せめてはその亡霊にでも縋ろうと思ったのだ。友だちはそれは酒精中毒からの幻覚というものだったと言ったが、僕にはその幻覚でよかったんさ。で僕は、僕という人間は、結局自分自身の亡霊相手に一生を送るほかには能のない人間だろうと、極めてしまったのだ。……お前はどう思ってるか知らんが、突然妻の家へ離縁状を送ったというのも、ひとつはそんな動機から出てるんだぜ……」
惣治には兄の亡霊談は空々しくもあり、また今ではその愛とか人道とかいうようなものを心得ているらしい口吻には疑いも感じられたが、酒精中毒という診断には心を動かされた。
「しかし乱暴な話ですねえ。そんな動機からぴしぴし離縁状など出されては、相手が困るでしょう」
惣治は兄の論法に苦笑を感じた。
五
四月も暮れ、五月も経って行った。彼は相変らず薄暗い書斎に閉籠って亡霊の妄想に耽っていたが、いつまでしてもその亡霊は紙に現れてこなかった。
ある日雨漏りの修繕に、村の知合の男を一日雇ってきた。