Classici giapponesi con furigana
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つげびと
野菊の墓
伊藤 左千夫
Leggi 野菊の墓 (つげびと) di 伊藤 左千夫 (いとうさちお) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 34.955 caratteri · 71 schermate
糟谷が自分の周囲の寂寥に心づいたときはもはやおそかった。糟谷ははるかに時代の推移から取り残されておった。場長の位置を望むなどじつに思いもよらぬことと思われてきた。いまの現在の位置すらも、そろそろゆれだしたような気がする。ものに屈託するなどいうことはとんと知らなかった糟谷も、にわかに悔恨の念禁じがたく、しばしば寝られない夜もあった。糟谷はある夜また例のごとく、心細い思案にせめられて寝られない。
なるほど自分はうかつであった。国家のためということを考えて働いた。畜産界のためということも考えて働いた。人民のためということも考えて働いた。けれどもただ自分のためということは、ほとんど胸中になく働いておった。なんといううかつであったろう。もうまにあわない、なにもかもまにあわない。
糟谷はこう考えながら、自分には子どもがふたりあるということを強く感じて、心持ちよく眠っている妻子をかえりみた。長男義一はふとってつやつやしい赤い顔を、ふとんから落としてすやすや眠っている。妻は三つになる次男を、さもかわいらしそうに胸に抱きよせ子どものもじゃもじゃした髪の毛に、白くふっくらした髪をひつけてなんの苦もない面持ちに眠っている。