Classici giapponesi con furigana
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ななこ
野菊の墓
伊藤 左千夫
Leggi 野菊の墓 (ななこ) di 伊藤 左千夫 (いとうさちお) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 71.271 caratteri · 144 schermate
省作は今おとよさんにどうされたって、おとよさんの意のままになるよりほか少しでも逆らうべき力がないようになってしまった。なるほど女というものは恐ろしいものだ。
おとよさんは「ありがとうございました」と小声でいうて手ぬぐいを手渡しながら、一層かすかな声で「省作さん」というた。その声はさすがにふるえている。省作は、「はア」と答える声すら出ないで、ただおとよさんの顔をじっと見上げているうちに、座敷の方で、
「おとよおとよ」
と呼ぶのはお袋の声だ。おとよさんは無言のまますっと身をかわして戸の内へはいる。はいってから、
「はアい」
とあざやかな返辞をする。
「湯がぬるかないか。釜の下を見て上げてくれ」
「はい」
おとよさんは再び出てきて、今度はさえざえした声で、
「省作さんおぬるいでしょう。ゆっくりはいっててください。今燃しますから……」
人をはばからない声だ。薪を二、三本釜に入れて火を燃しつけた。省作はそれにはかまわず、湯を出て着物を着掛けている。
「省さんもう上がったんですか。ぬるかったでしょう」
省作はいくじなく挨拶のことばも出ないが、帯を締めるにもことさらに手間どってもじもじしている。