Classici giapponesi con furigana
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おちぼ
野菊の墓
伊藤 左千夫
Leggi 野菊の墓 (おちぼ) di 伊藤 左千夫 (いとうさちお) in giapponese con furigana. JLPT N3. Tocca una parola per il significato.
N3 · intermedio · kanji e kana moderni · 25.621 caratteri · 52 schermate
お宮の扉の裏の人の気づかなそうなところで、筋をつけた上に墨でこまかく書いてあった。東京に永住の身となってからも、両親のある間はずいぶん帰省したけれども、ついにこのことあるを思い出さなかった、昔のそれを今発見したのである。それはただ自分の名と女の名とが小さく一寸五分ばかりの大きさに並べて書いてあるまでであるけれど、その女は自分が男になってはじめて異性と情をかわした女であるのだ。自分はそれを見ると等しく当時の事がありありと思い出される。自分はわれを忘れてしばらくそれを見つめておったが、考えて見ると当時女から「消してください、後生だから消してください。」といわれて自分がそれを消したように覚えてる。まったく夢のようで夢ではない。見れば見るほど記憶が明瞭になって来て、これを書いた当時の精神状態も墨も筆も思い出される。
「こんな若い時のいたずらごと誰でもある事だ。いまさら年にもはじないでなんだばかばかしい。」と急にわれと自分をしいて嘲罵してみたけれども、そのあまい追懐の夢のような気持ちをなかなか放すことはできない。そうして今の自分の、まじめに固まりくさった動きのとれない寂しさを考えずにもおられなかった。