Classici giapponesi con furigana
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きんろう
金狼
久生 十蘭
Leggi 金狼 (きんろう) di 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 89.438 caratteri · 179 schermate
葵の胸が震えた。
「でも、それだってすぐ判るでしょう。四寸を着る女なんかそうザラにいないし、それに釦のこともあるし……」
久我はひどく無感動な顔つきで、
「その位の女は沢山いる。だいいち、君だって四寸着るしね。……それに、君のアフタヌンも背中の釦がひとつとれている」
葵の喉が、ごくりと鳴った。
「これはずっと以前に〈シネラリヤ〉のホールで失くしたのよ。それがどうして?」
「どうしたなんてきいてやしない。これだってひとつの暗合だというんだよ」
頭に血がのぼって、眼のまえが暗くなった。支離滅裂な考えが、ピラピラといくつも頭のなかを走りすぎた。
〈……久我はあたしを愛していたのではない。……この証拠を握るためにあたしと結婚したのだ。……卑劣な刑事根性……〉
握りしめていた茶碗が、思いがけなく葵の手を離れて壁のほうへ飛んでゆき、そこで鋭い音をたてて微塵に砕けた。
卓のむこうに飽気にとられたような久我の顔があった。
葵はその顔を、キッと睨みつけながら、
「そんなにしてまで、あたしを人殺しにしたいんですか。……罠にかけるようなことをして、それを手柄にするつもりなんですか。