Classici giapponesi con furigana
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きんろう
金狼
久生 十蘭
Leggi 金狼 (きんろう) di 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 89.438 caratteri · 179 schermate
一人は縮みあがった綿セルの服を着た五十歳位の、ひどく小柄な小官吏風の男。まるで顎というものがなく、そのうえ真赤に充血した眼をしているので、ちょうど二十日鼠がそこに坐っているように見える。もう一人は四十歳位で、黒いソフトをあみだに冠った、すこしじだらくな風態だが一見して高等教育を受けた男だということがわかる。酒のみだと見えて、鼻のあたまが赤く熟しかけている。
たった今はいって来たほうは、夏帽を窮屈そうに膝に抱えたまま、見るからに落ちつかないようすで街路のほうを眺めている。なるほど、こういう場末町の不潔な酒場にはそぐわない男である。凄いほどひき緊った、端麗な顔をした三十四五歳の青年で、すっきりとした薄鼠の背広に、朱の交った黄色いネクタイをかけ流していた。銀座でもあまり見かけないような美しい青年である。
青年も二人の先客も、互いの眼をはばかるように背中合せに坐ったまま、さっきから身動きしようともしない……。こんな風にして時間がたつ。
それから二十分ほどすると、急に扉があいて、二人の男が前後になってはいってきた。
一人は小鳥のようにうるさく頭を動かし、キョトキョトと酒場のなかを見まわしながら、なにかしばらく躊躇っていたが、やがて、逃げるように出てゆくと、たちまち街路のむこうへ見えなくなってしまった。