Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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くものこみち

雲の小径

久生 十蘭

Leggi 雲の小径 (くものこみち) di 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 16.634 caratteri · 33 schermate

Aozora Bunko

三

香世子がさんざんに悩んだすえ、あそこにさえ行けばと駆けこんで行ったら、会堂だけあって、神さまは居なかったというの。六年はおろか、十年でも十五年でも待っていてくれるものと、安心しきっていたんですから、そのときの失望はたいへんなものだったらしい。じぶんには、もう死ぬほか生きる道はないのだと、思ったというの」

「そこまでのことは、私も知らなかった。それは、あなたが考えだしたことなの。それとも、書き残したものでもあったの」

柚子は伏眼になって、ニヤリと笑って、

「そんなものは、なかったのよ」

急に声の調子が変って、身体ごと伸びあがるような感じで顔をあげると、

「あたしを、誰だと思っていらっしゃるの」

メドをはずしたおぼろげな声で、

「お忘れになったわけじゃないでしょう。あたし香世子よ」

と訴えるようにつぶやいた。

香世子の霊が、なにかいっている。それがうれ、れる、れろ、と聞える。空の高みをそよ風が吹きとおるように、どこからともなく漂い寄ってくる感じで、かそけくもまたほのかに、白川の耳うらにひびいてくるふうであった。

三

一本杉の金洞舎はすぐわかったが、茨木はこの月のはじめに、白雲山の奥ノ院に移ったということで、妙義町までひきかえして、社のうしろの登り口から、鶯鳴の滝のほうへぶらぶらと上って行った。