Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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むぎわらぼうし

麦藁帽子

山本 周五郎

Leggi 麦藁帽子 (むぎわらぼうし) di 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 6888 caratteri · 14 schermate

Aozora Bunko

野辺香草や常山花が匂っていたことも、あの娘の髪毛に霧の粒が光っていたこともわしは忘れない、――この麦藁帽子は、その娘がよそへ嫁ぐときわしに買ってよこした物でさ」

老人は少し羞らいながら、そのすばらしく大きな麦藁帽子をぬいでみせた。

「あれからすっかり村のようすは変った。森には端から斧が入ったで、野猿も鹿もどこかへ行ってしまったし、岬の鼻は波にけずられて少しずつ海の下になっていく、そしてあの娘も今では孫がある」

「それで吾八は――?」

「さあどうしているかのう、かわいそうに。村じゅうの可愛がられ者だったが、白痴になるとまもなくどこかへ行ってしまって戻らねえだ、今はどうしていることだか」

老人は肩をおとして太息をついた。

その夜、斧田が寝際の酒を命ずると、したくをして来た若い女中が、

「お客様はきょう、松屋敷の吾八と話をしていらっしゃいましたね」

と笑いながら云った。

「吾八と――? どこで」

「岬道のところで釣りをしながら話していらしったじゃありませんか」

斧田は意外なことを聞いたので盃を措いた。

「あれが吾八なのかい」

「誰だと思いなさいましたの」

「いやべつに誰とも思わないが、吾八の話はあの爺さんから聞いたぜ」