Classici giapponesi con furigana
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むぎわらぼうし
麦藁帽子
山本 周五郎
Leggi 麦藁帽子 (むぎわらぼうし) di 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 6888 caratteri · 14 schermate
老人は何か思出しでもするように、しばらく沖のほうをみつめていたが、やがて深く溜息をもらしながら続けた。
「わしの家はこの村でも旧家のほうでな、世間じゃあ松屋敷と呼んでいるだ、お客様も来るときに見てござらっしゃったろうが、神戸橋を渡ったところに深い森があるだ、わしの子供の時分にはあれが今の十倍も広くて、野猿がしこたまいたし、ときによると鹿が迷いこんで来たりしただが、わしの屋敷の庭というのがあの森と地続きになっていましたのじゃ、子供の時分――わしはよくこう云って起こされたもんでさ、さあ起きるんだぞ、野猿が柿を盗みに来ているから」
呼び起こされて出てみると、庭続きの柿畑にいっぱい野猿が群っている、そこで下男の吾八が鉄砲を持って駈けだして来る、静かな朝の霧をゆるがして空砲が鳴る、すると猿どもは喧しく鳴き叫びながら柿の実を持ったのや噛りかけのやつが、後になり先になり森の奥へと遁げて行く、下男の吾八は鉄砲の筒口から硝煙を吹きだしながら云う。
――いつかあの親猿を仕止めてやろう。
「あの時分はよかった」
老人はしばらく黙っていたのち云った。
「わしの嫁になるべき娘がいてなあ、その娘はとうとうよその者と一緒になっただが、わしたちはよくあの森の中で会い会いしたもんじゃった。