후리가나로 읽는 일본 고전
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ふたつのみち
二つの途
豊島 与志雄
豊島 与志雄의 二つの途(ふたつのみち)을 후리가나와 함께 일본어로 읽으세요. JLPT N2. 단어를 누르면 뜻이 나옵니다.
N2 · 고급 · 신자체·신가나 · 51,102자 · 104화면
もし彼女が、「岡部が全快してさえくれたら……。」という平易な希望を見守っていたら、恐らくこの影は彼女を脅かしはしなかったろう。然し彼女は、病室の空気に余りに馴れ親しんでいた、余りに馴れ親しんで、その平易な希望をも何処かへ置き忘れていた。ただ在るがままの現在に、彼女は前方を塞がれていた。そして行きづまって停滞した彼女の心は、過去の影に脅かされた。脅かされた彼女の心を、更に啓介の執拗な眼が覗き込んだ。彼女は知らず識らずに木下の画室に逃げ込んでいた。画室は広々としていた。未来がうち開けていた。自由に呼吸することが出来た。一種直線的な傾向を持っている彼女の魂は、其処に出口を見出していた。
彼女は椅子に深く腰を下して、じっと考えに沈んだ。然し別に何も考えてはいなかった。彼女はふと顔を挙げて、真赤に塗りつぶされた画面を見入った。それから窓の方を眺めた。雨はまだ降り続いていた。彼女は木下のことを思った。今はそれを思うのは一種の苦痛であったが、その苦痛の底からしきりに待たるるものがあった。彼女は待った。何を? それは彼女にも分らなかった。婆やがはいって来ると、彼女は卓子の上に在った書物を機械的に取り上げた。