일본어 읽기 연습

후리가나로 읽는 일본 고전

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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

山本 周五郎의 樅ノ木は残った(もみノきはのこった)을 후리가나와 함께 일본어로 읽으세요. JLPT N2. 단어를 누르면 뜻이 나옵니다.

N2 · 고급 · 신자체·신가나 · 112,073자 · 223화면

아오조라 문고

甲斐には「くびじろ」がそう云ったように思え、はっと息をひそめた。鹿がこっちへ動きだしたのである。甲斐は弓を持ち直し、矢をつがえた。背負った寝袋が邪魔になる、しかし解いているひまはなかった。

風は北から吹いていた。くびじろは風上からこっちへ来る。用心ぶかく、ときどき鼻を上へあげ、周囲をうかがいながら、静かにこっちへ近づいて来る。ふしぎだ、と甲斐は末弭を少しあげながら思った。

くびじろは他のどんな鹿にも似ていない。狡猾なほど賢いし、物の音や匂いに対して異常なくらい敏感だった。そのくびじろが、いま風下に向かって歩いて来る。これまでかつてそんな例はなかった。それが絶対に必要でない限り、風下に向かうなどということは、少なくとも、「くびじろ」のばあいには見たことがなかった。

――ああ、と甲斐は思った。おまえ老いぼれたな。

鹿はいちど立停った。甲斐は「おちつけ」と自分に云った。鹿はまた歩きだした。粉雪のなかに、いまはその姿をはっきり見ることができる。みごとな角、逞しいからだ、雪をかぶっているためか、顎の白い斑毛が汚れた灰色に見える。動作は重おもしく、肢のはこびも鈍いようだ。