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あるこうぎしょ
ある抗議書
菊池 寛
「中央公論」中央公論社、1919(大正8)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,272 字 · 34 页
ことはなく無限でありまする。以上申述べましたのは、私の肉体上の生死を述べたのではございません。肉体の生死と云うことは今日では頭に置きませぬ』と、又こうも申して居ります。
『基督教信者は神様よりほかのものは、如何なるものにても、恐れませんのは、私がただ口実を以て申すのではございませぬ。マタイ伝に「身を殺して魂を殺すこと能わずる者を懼るる勿れ」と、あります。之が確かな宣言でございまする』
以上、坂下鶴吉の言葉に依りますと、彼は監獄に在ってキリスト教の信仰を得た為に、彼の強盗時代よりも、もっと幸福に暮したようであります。そして死刑を少しも恐れて居ないことは、『身を殺して魂を殺すこと能わざる者を懼るる勿れ』と、申して居ることで明かであります。もし国家の監獄が基督教の修道院でありますれば、之で結構であるかも知れませんが、監獄が国家の刑罰の機関である以上、監獄に繋ぎながら、囚人を彼らの罪悪時代よりも幸福にし、刑法を、『身を殺して魂を殺し得ざるものとして』何等の威力なからしめて、それ監獄の目的死刑威力が発揮せられるでしょうか。
私は、よくは解りませんが、ある法学者から刑罰の目的に就いては、相対主義と絶対主義と、二つあるのだと云うような事を聞いたことがありますが、キリスト教の信仰さえ得れば監獄も幸福に、死刑も懼るに足らず