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あるたんていじけん
ある探偵事件
寺田 寅彦
「大阪毎日新聞」1934(昭和9)年2月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,817 字 · 4 页
(2)新聞の写真のB猫とC猫との肖似。ただし記憶だけで他に実証なし。(3)BCとDとの幾分の肖似。(4)新聞記事によると、B猫が不良で夜遊び昼遊びをして困るという飼主夫人の証言。これだけである。この(1)(2)(3)(4)いずれも当面の問題に対しては実に貧弱なデータで、これだけからなんらの確からしい結論も導き出せないことは科学者を待たずとも明白なことである。しかし、われわれの「人情」と「いわゆる常識」はこの(1)(2)(3)(4)から(一)(二)(三)を肯定しようとする強い誘惑を醸成する。
その後、出入りの魚屋の証言によって近所のA家にもやはり白い洋種の猫がいるという一つの新しい有力なデータを加えることは出来た。しかし、東京中で西洋猫を飼っているA姓の人が何人あるか不明であるから(一)の問題はやはり不明である。ただ、近所のA家の猫と宅の猫との血族関係に関しては幾分のプロバビリチが出来ていた訳である。
下手の探偵小説には(1)(2)(3)(4)だけから(一)(二)(三)を誘導するようなのがありはしないか。おなじような論理の錯誤から実際の刑事事件について無実の罪が成立する恐れが万一ありはしないか。