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うすゆきしょう

うすゆき抄

久生 十蘭

「オール讀物」1952(昭和27)年1月号~3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,454 字 · 59 页

青空文庫

道は石高の一本道だから、途中に木戸を置いて守らせれば、そちらからの防ぎも十分につくはず、と細かく詮じつけ、邸のうしろに行き来もならぬ檜の森をとりこみ、櫓門のついた築泥塀を長々とひきまわし、邸のつくりは本願寺の飛雲閣のをとり、いちばん上を四方窓のついた物見のような閣室にこしらえ、十畳つづきの二間に絵襖をひき、資子もいっしょにそこへ臥させることにした。

これで残りなく手をつくした、と道益はほっとしたが、かんじんのところが一本抜けていた。今こそ荒れ田になっているけれども、いつかは持主が帰ってくるかもしれないというところまで考えておかなかったのは、なんといっても手抜かりであった。のみならず、山邸の地取り自体がすこぶる間のぬけたものであった。大炊介の田地と住居のある上の入谷津まではここも石高の一本道で、小田原の町へ降りるには、どうしても山邸の横を通るしかないのだが、そのうえ石高の坂道は西側の築泥塀の際で急に高くなっているので降りがけには、否応なしに塀の内側をのぞきこむようになり、防備という点からいうと、これはいかにも不束なものであった。塀際をうねりあがる石高道は、一歩ごとにそこを通る人間をおしあげ、塀の上端越しに頭から爪先まで露骨に見せてしまう。