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うすゆきしょう

うすゆき抄

久生 十蘭

「オール讀物」1952(昭和27)年1月号~3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,454 字 · 59 页

青空文庫

古柯も罌粟の精もわけなく手に入るから、夜庭へまぎれだすときは、前もって母に飲ませておく。不眠で困っているのだから、いささか孝養の足しにもなるわけである。

行子はそういう心境になっていたが、相手のほうはどうだったというと、大炊介は大炊介で、種類こそちがうが得態の知れぬ思いに憑かれて悩んでいたのである。

足利学校は上杉憲実が再興したものだという。天正のはじめ、九世九華和尚が学頭になると、兵乱の間をぬけて学徒が四方から集まり、戦殃の最盛時でさえ、三千人の学徒が在学していたというが、国中が斬りつ斬られつ、血みどろな奔走をしているとき、上州の片隅に勉学に沈潜する静謐な世界が存在したとは、信じられないようなことである。

大炊介が禅坊主まがいの儒学の勉強をしていたのは、自意だったのか父が勧めたのか書いていないが、思うに、それは小太郎の才覚なので、大炊介に小田原にいられると都合の悪いことができ、その間、当座の方便にそんなところへやったのだと思われるふしがある。青山新七という老人は訓戒を与えることしか知らぬ、腐れ儒者にありがちな朴念仁だったから、大炊介は春秋二度、聖山からこっそり逢いに来る母の香具の気ぜわしい愛撫のほか、人間の愛情というものを知らずに育ったが、五年前、足利学校へ追いやられる頃から、母がぷっつりと来ないよう