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うすゆきしょう
うすゆき抄
久生 十蘭
「オール讀物」1952(昭和27)年1月号~3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,454 字 · 59 页
川口の船頭衆がじれったがって、あれこれと遠廻しにほのめかすのだが、いっこうにお気がつかされぬ。わざわざあんなところに高楼をしつらえ、色めいた風すら嫌って、大切に囲ってござる一ノ姫が、布直衣に乞食烏帽子をかぶった貧相な青児をひりだしたら、さぞや仰天するであろうと思うと、あまり気の毒で顔が見られぬ」
とほざく。
たいていの鈍な親なら、これだけ聞かされてはおさまるはずがなく、「なにをぬかす、鰻掻きめら」と、ありあうを蹴散らしていきり立つところだが、さすがは老骨、そんな未熟な所為はしない。いずれ残らずひっ捕えて、噂の出どころを究明してくれるつもり。川篝の火の明りで一人一人の顔を見届け、足音を忍ばせてそっと磧から離れると、町の辻で供を帰し、一人で山邸へ上って行った。
楼門のわきから入って、池について庭裏の森端まで進み、樗の大樹の下闇の露もしとどなところにしゃがみこんでいると、月影も透かさぬほど密々と幹を迫りあった森の木の間から、夜目にもそれと知れる鈍色の小狩衣を薄手に着こなし、葡萄牙渡りの悪魔の面甲をつけた男があらわれたと見るうちに、潜戸から行子が走りだしてきて、こうすれば男というものは抵抗できなくなると承知している巧者な身振りで、相手の胸にどっと身を投げかけ、ただもう優しくありたいとねがっているように、身動きも