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うすゆきしょう
うすゆき抄
久生 十蘭
「オール讀物」1952(昭和27)年1月号~3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,454 字 · 59 页
道益は大得意で機嫌よくうなずいていたが、いくらお世辞でもおなじことばかり巻きかえされると、諷刺をいわれているようで気がさし、なんとなく面白くなくなった。
そういうころ、会所の寄合で夜を更かし、供を一人連れて磧を通りかかると、落鰻を拾う下人が五人ばかり、磧の岸にを仕掛けながら、
「見てみろ、また高楼に灯が入った。道益の一ノ姫は、今夜も船澗をあけて、谷戸の業平に夜舟を漕がせる気とみえる。これでもう五つ夜つづけうちだが、ようまァ精の出ることだ」
と声をそろえてはやしている。道益は手真似で供をとまらせ、川曲の闇だまりにしゃがみこんでいると、下人どもはそうとも知らず、あたり憚らぬ高声で、
「蘆屋の大人は聡しいお人で、世渡りの道にかけては、諸事ぬかりなくやってのけるという評判だが、表の道に木戸をおき、唐門の櫓に見張りあげて守らせても、裏の水路はまるあきで、毎夜のように密貿易の船頭が入り込み、船澗へけしからぬ水馴竿を振込むのを知らずにいるようでは、たいした器量人と思えない」
というと、また一人が、
「その話では、小田原中がひっくりかえって笑っている。知らぬは道益殿ただ一人。