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うすゆきしょう

うすゆき抄

久生 十蘭

「オール讀物」1952(昭和27)年1月号~3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,454 字 · 59 页

青空文庫

もう霜が来るでしょうか。そうそう、眠られぬまま、一首ものしました。眠らるる時しなければ蘆田鶴の、見ずの羽音を聞き明かすかも」

「蘆田鶴の……うむ、結構だね。和歌というものは、いつ聞いても心持をのびやかにしてくれるものだ。するとなんだな、お前は昨夜も眠れなかったのだとみえる。気の毒な、そう眼が慧くとも困ったものだ。もちろん冗談さ。たかが魚拾いの下司どものたわごと。そんな側言をしていたという話だ。お前の臥床を踏み越えて庭に忍びだすなんて、どうしたって出来ることではないからな」

と去り気なく笑いおさめてしまったが、心の中では歯軋りをした。この社家くずれの女には、これでもう二度も欺された。難産でもするどころか、守札にも及ばずやすやすと二人も子供を産んでのけ、しどろもどろにあわてさせた。そのほうは宿業のうちと諦めたが、大口あいて寝くたれ、毎夜、娘が裏庭の森端まで忍びだすのも知らずにいるくせに、蘆田鶴も候もあったものではない。才走って見えるのは上っ面だけ、中味はとんだ愚図らしいと、連添ってから二十年目に、やっと女房の正体を見極めた。

油断とは、高慢な心のゆるみをいうのであろうが、資子にしろ月三匁ずつの傭兵にしろ、高楼も築泥塀も、これなら大丈夫と頼りきっていたのがぬかりだったと嘆じていると、長男の道長は朝餉のあとの一服