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おさん

おさん

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1961(昭和36)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,128 字 · 66 页

青空文庫

関東の人間には上方の水は合わないという、慥かにそのとおりだ。おれはもう上方へは戻らないだろう、おさんがどんな事情になっているかわからないが、もしできることなら引取って、もういちどやり直してみてもいい。憐れみや同情ではなく、傷つき病んでいる者に手を差出すように。やれるかどうか、やれるだろうか。幾人もの男から男へ渡った女を、また女房にすることができるか。いまは遠くはなれているから、哀れだという気持が先になる。現にその顔を見て、幾人もの男に触れた女だ、ということを思いだしたらどうだ。おさんが幾人もの男に抱かれたという事実は、生涯二人に付いてまわるぞ。それでも夫婦としてくらしてゆけるか。はやまるなよ、いちじの哀れさに負けるな。自分ではいいつもりでよりを戻しても、いつかがまんできなくなって、また別れるようなことにでもなったら、こんどこそ取返しがつかないぞ。まあおちつけ、そうがたがたするな、おれも二十六になったんだ。えらそうな口をきくようだが、二年まえのおれとは少しは違っていると思う。おさん、この勝負はおまえとおれでつけるんだ、わかったな。おれはきっとおまえを捜しだしてみせるよ。