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おばなさわ

おばな沢

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,479 字 · 45 页

青空文庫

七

「極秘も極秘だが節子は病人じゃないか、ようやく少しおちついたところへそんな話をして、また悪くでもなったらどうするんだ」

「お兄さま違います。節子がむりにお願いしたんですわ、そうでもないと不安で」

「おまえは黙っていろ、ものにはけじめということがある、どうせがまれたからといって藩家の秘事を、しかもこんな病人に向って饒舌るという法があるか、もう時間も過ぎている、戸田、帰って呉れ」

泰馬は仮借しない態度で英之助の立つのを待っていた。そうしてまるで追いたてるように、彼を先にして去っていった。

七

英之助の話は節子には刺激がつよ過ぎた。しかし病気にはさしたる影響はなく、却って気持がしゃんとなったようにさえ感じられた。しっかりしなければいけない、あの方はそんな危険なところにいらっしゃる、本当なら今こそおそばにいてあげなければならないのだ。

――私たちは本当に結婚できるでしょうか。

英之助のそう云った意味が、節子には初めて理解ができた。眼をつむると見える、岩の蔭、藪の茂み、断崖の上に、野獣のように身をひそめている人間の姿が。……弓に矢をつがえ、息をころして、桟道を通る人を狙っている。