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おばなさわ
おばな沢
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1949(昭和24)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,479 字 · 45 页
「――そうでした」
相良は眼を伏せてそっと頷いた。
「――彼を射たのは番所の矢でした」
「ああやっぱり」
節子は叫んで、歯を噛みしめながら眼をぎらぎらさせて相手を見た。全身がひき裂けそうな感じである。そこに戸田を殺した人間がいるではないか。そんな早い時刻に、戸田が部屋にいないことを、どうして彼が知ったのか、どうして彼だけが心配して、彼ひとりで捜しにでかけたのか。部下も大勢いるではないか、捜すならなぜ部下たちに命じなかったのか。
「わたくしにはわかります」
節子はふるえながら云った。
「わかっています、誰が戸田を殺したか、土民などではありません、いいえ決して、もっと身近な、もっと卑しい、そして」
「――節子、やめろ」
うしろで泰馬の叫ぶ声がした。
「そして正直らしい顔をしている人です、それは、今そこにいる」
「黙れ、黙れ節子」
兄がうしろからとびつき、片手で節子の口を塞いだ。しかしその必要はなかったのである。節子は気力をつかいはたしていた。兄が手で塞がなくとも、あとの言葉は出なかったであろう。泰馬の腕で抱えられたとたん、彼女は眼がくらみ、なにもかもわからなくなった。