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おもかげしょう

おもかげ抄

山本 周五郎

「キング」大日本雄弁会講談社、1937(昭和12)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,947 字 · 22 页

青空文庫

「いやそれは困ります、浪人ながら御領内に住む孫次郎、些かなりともお役に立てば、本望でござる。礼物など平に……」

「まあお受け下され、辞退されるほどの品でもござらぬ」

贈物を進めて沖田源左衛門が、

「さて、改めてお願いがござる」

と云った、「お腕前のほど先日篤と拝見仕ったが、御流儀は梶派でござるな」

「はあ、未だほんの未熟者でござる」

「実は拙者も壮年の頃、梶派一刀流を些か学びましたので、太刀捌きなつかしく、拝見致しましたが、――就ては拙者に千之助と申す伜が居ります、これに、梶派を教え度いと予々心掛けて居ったところ。如何でござろうか、日取りその他は御都合にお任せ申すが、拙宅まで御教授に出向いては下さるまいか」

大番頭をも勤める人が、自ら辞を低うしての懇請である。素より武道に生きる身の拒む理由はなかった。

「未熟者の拙者、迚も人にお教え申すことなどは、出来ませぬが、折角の思召しを辞するは却って失礼、宜しかったら型だけにても」

「御承知下さるか、それは忝のうござる、――では追って日取などを決めたうえ」

と源左衛門は悦ばしげに云ったが、ふと奥の方を見やって、

「御家内には御病臥でござるか」