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おもかげしょう

おもかげ抄

山本 周五郎

「キング」大日本雄弁会講談社、1937(昭和12)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,947 字 · 22 页

青空文庫

と訊いた。

「はあ――」

孫次郎は何故か俯向いたが、やがて座を立つと、

「御覧下されい」

と云って合の襖を明けた。

これほどの甘次郎と呼ばせる妻、どんな美人かと見ると、――意外や、次の間には小さな経机がひとつ、仏壇の前に据えられて、ゆらゆらと線香の煙が立昇っている。

「是は、――どうした事……?」

「実は、三年あとに死去致しました」

「御死去」

源左衛門は眼を瞠るばかりだった。ここへ訪ねて来るまえに、付近の者の評判をよく調べて来たのだ、勿論、女房に甘次郎という噂も聞いている。

「すると、先刻奥へ声をかけられたは?」

「お耳に止って赤面仕る」

孫次郎は低くうなだれて、「仕合せ薄き女にて、三年以前浪々の貧中死なせましたが。未練とお笑い下さるな……手前にはどうしても死んだと思い切ることが出来ず」

「――――」

「俤ある内は生きているつもりにて、あのような独言を申し始めたのが癖になり、今日までそのまま……」

語尾が顫え、声がしめった。

既に死んだ妻を、生けるが如く思いなして、家の出入り立居にまで、そこに在るかのように声をかける心根、人は未練と笑え、胸を去らぬ恋妻への愛情は、哀れ、