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おならさま
お奈良さま
「別冊小説新潮 第八巻第一〇号」1954(昭和29)年7月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,159 字 · 20 页
なんとも言いがたいほど奥深く静かなイタワリと愛惜です。実に無限の愛惜です。盲人が妻や良人の心の奥を手でさぐりあうような静かな無限の愛惜です。夫婦のオナラとはこういうものです。オナラを愛し合わない夫婦は本当の夫妻ではないのです。要するに妻は私を愛したことがなかったのですよ」
唐七は暗然としてうつむいた。まことに悲痛な様ではあるが、お奈良さまは彼の説く妙諦がまだ充分には味得できなかった。なぜならお奈良さまの一生はあまりにもオナラに恥の多い一生で、唐七のように逞しくオナラを美化する考え方には馴れがたかったからである。
なるほどお奈良さまのお寺ではその女房も花子も遠慮がちではあるがオナラをもらしあっている。そう悪いものではないが、さまで賞味するほどのことではないような気分だ。奥深いと云えば女がそッともらすオナラそのものがなんとなく奥深いフゼイであるが、無限の愛惜をこめて女房のオナラを心にだきしめた覚えもない。
お奈良さまが何よりもその悲痛さに同感したのは、唐七が女房子供にオナラの差し止めをくったということだ。お奈良さまもソメ子にトドメを刺されたけれども、自分の女房子供にオナラの差し止めをくってはおらぬ。