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おならさま
お奈良さま
「別冊小説新潮 第八巻第一〇号」1954(昭和29)年7月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,159 字 · 20 页
お奈良さまと云っても奈良の大仏さまのことではない。奈良という漢字を当てるのがそもそもよろしくないのであるが、こればかりは奈良の字を当てたいという当人の悲願であるから、その悲願まで無視するのは情において忍びがたいのである。
お奈良さまはさる寺の住職であるが、どういうわけか生れつきオナラが多かった。別に胃腸が人と変っているわけではないらしく到って壮健でまるまるとふとってござるが、生れた時から絶えずオナラをしたそうで、眠っている時でもオナラは眠らない。目をさましている時ほどしょッちゅうというわけではないが、大きなイビキと大きなオナラを同時に発するというのはあまり凡人に見かけられないフルマイだと云われている。彼の言明によると、十分間オナラを沈黙せしめる作業よりも、一分間に一ツずつ一時間オナラを連発せしめる作業の方が楽だということである。
坊さんは職業としてお経をよむ。ところがこの読経というものは極楽との通話であるから魂が天界を漂うせいかオナラの滑りがよくなってどこに当るということもなくスラスラとつらなりでるオモムキがある。例月例年の命日の読経などはさしつかえないが、葬式やお通夜の場合は泣きの涙でいる人も多いのだから大音を発しすぎてはグアイがわるいようであるが、オナラの戸締りに力をこめてお経を読むわけにいかない