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おならさま

お奈良さま

坂口 安吾

「別冊小説新潮 第八巻第一〇号」1954(昭和29)年7月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,159 字 · 20 页

青空文庫

さて、そこで、なんとしても人前ではオナラをもらさぬようにしたいが、食べ物の選び方でどうにかならぬかな」

「私と結婚した晩もそんなことをおッしゃいましたが、ダメだったではありませんか。オナラは食べ物のせいではありませんよ。もともと風の音ですから空気を吸ってるだけでもオナラが出ましょうし、その方が出がよいかも知れませんよ。あきらめた方がよろしいでしょう。皆さんも理解しておいでですから」

「イヤ、その理解がつらい。その理解に甘えてはケダモノにも劣るということが身にしみたのだ。とにかく、つとめてみることにしよう」

その翌日から幾分ずつ節食して一歩外へでると万人を敵に見立てて寸時もオナラの油断を怠らぬように努力した。腹がキリキリ痛んでくる。口からオナラが出そうになる。アブラ汗が額ににじむ。足が宙に浮く。たまりかねると、人も犬もいないような路地にかくれて存分にもらす。結局もらすのだから変りがないようなものではあるが、日ましに顔色がすぐれなくなり、やせてきて、本当に食慾がなくなってきた。なんとなく力がぬけて、生アクビがでてしょうがない。するとオナラも一しょにでてそれは昔と変り目が見えないのに、皮がたるんで痩せが目立つようになった。