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おしげ
お繁
山本 周五郎
「アサヒグラフ」 1935(昭和10)年10月12日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,857 字 · 14 页
――しかたがない、役場で面倒をみることにした。
お繁の生活がはじまった。
役場では彼女たちのために何をしたろう。何もしはしない、てんでかまいつけなかった。ぜんたいなんのために腫物だらけの臭い面倒をみてやるのだ? なぜそいつを風呂に入れてやったり食事の世話をしてやったりする必要があるのだ?――うっちゃっておけばよろしいではないか、腹が減ったら今までのようにごったく屋の裏口へ行けばいいし、体を洗いたければ河に水は絶えない、眠くなったら父親がしたようにどこかへもぐりこんで寝ればいい……。いかにもそのとおりである。
村人たちは、お繁が村役場の近くにいるのをみたことがない、虱だらけの茫々頭はいつも荒地にいる。――まだ暗いうち、ときにはほとんど夜明けの色もない三時半頃、貝掘に急いでいる漁夫が、荒地を横切る途中で妹を背負った彼女に会う。
「ええッ」
と男はとびあがる、「たまげた、おめえ繁あねじゃねえかよ、何してるだ」
「行けまあ」
お繁はじろりと白い眼を向ける、「おんだが何してべえと、いしの知ったことけえ」
彼女はまた村はずれの家並の裏にいる、そして竹きれで溝の中を掻廻している。