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くろがねてんぐ
くろがね天狗
海野 十三
「逓信協会雑誌」1936(昭和11)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,616 字 · 18 页
それこそは岡引虎松の辛棒づよい偵察姿勢だとは知る由もなかった。彼は怪人の正体がどう考えても解けない口惜しさに、かろうじて辛棒づよい偵察をつづけているわけだった。
「おおッ――」と半之丞は、電気に觸れたように身慄いした。
「おお珍らしや、向うから来るは確かに人影、占めた!」
半之丞は大きく肯くと、いつもとは違って機械人間を虎松の登っている商家の軒下に追いやった。そして半之丞が大刀をキラリと抜いた。今宵は彼もくろがね天狗と同じ黒装束に黒頭巾の扮装に身を固めていた。どうやら今宵は、半之丞自らが手を下すつもりらしい。
「来る、来る。……逃ねばよいが……」
実は悪魔に魅いられた半之丞、機械人間を操って切っていたばかりでは物足りなくなって、時々自ら邪剣を振っているのだった。もちろん大した腕前ではなかったが、くろがね天狗の扮装がスッと出たばかりで相手は一とたまりもなく腰をぬかしてしまうのだから、それから後は言わば自由の利かない人間を嬲り殺しにするようなものだった。
「近頃、くろがね天狗の手練が、大いに落ちたようだ」
という噂も、実はこの半之丞代行の拙い業によるものだった。