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こがらし

こがらし

岩本 素白

――南駅余情――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,845 字 · 6 页

青空文庫

こがらし、筑波おろし、そういう言葉を明治中期の東京の少年達は早くから知って居た。そうして其の言葉を、自分達の書くものの中などにも使って居た。それは寒さが今よりも早く来たし、衣料も今のように温い毛の物などが無く、風がひどく身に沁みて、始終人がそういう言葉を口にしたからであった。十一月三日という日は何時も霜が深く、時にはみぞれが小雪になるような日さえあった。子供達は大抵紀州ネルのシャツを着ていて、それは袖口に瀬戸物のボタンの有るものであった。無論マントなどというものは着なかったのである。いや、それよりも、東京市中には殆ど高層建築というものがなく、地勢によっては、何処からでも富士も筑波も見通しで、分けても北の筑波おろしが身に沁みたのである。

一の酉が済んで七五三の祝い日ごろに成ると、大拡の木の葉が吹き落され、毎日こがらしが吹きすさむ。夜は戸を閉めて灯の色が暖く、人けも多くなるので、何か拠りどころが有るような気がするが、昼間吹く空ッ風は明るいだけに妙に頼りなく、風の子の子供達にさえ索漠としておちつかない気持を与える。こんな日に火事があると大変だな、遊んで居た子供がふとそんなことを言い出す。