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さかずきのりんね

さかずきの輪廻

小川 未明

「婦人公論 9巻1号」1924(大正13)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,603 字 · 21 页

青空文庫

このさかずきのことが忘れられた時分、彼は、ある日なにかの書物で、利助という、あまり人に知られなかった陶工の名人が、昔、京都にあったということを読みました。そして、強く胸を突かれました。なぜなら、彼の家に昔からあった、あのさかずきには、たしかに利助という名がはいっていたからです。

「そうだ、あのさかずきには、利助と名がしるしてあった。また、本には、ねずみや、花や、鳥の絵などをよく描いたとあるが、たしかに、あのさかずきの絵はねずみであった。」と、彼は思ったのでした。

彼は、ほんとうに、とりかえしのつかないことをしたと知ったのです。それにつけて、近所の物知りのおじいさんが、そのじつ、なにも知っていないのを、知るもののごとく信じていたのをうらめしく、愚かしく思いました。

「なぜ、村の人たちは、あのおじいさんのいったことを信じたろう。そうでなかったら、自分も信ずるのでなかったのだ。」と、後悔をしました。

また、「なぜ、自分は、さかずきを、あんなもののよくわからない、古道具屋などに見せたろう? もっといい骨董屋にいって見せたら、あるいは、利助という名工を知っていたかもしれない。