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そのきどをとおって
その木戸を通って
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1959(昭和34)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,448 字 · 44 页
七
よかった。吉塚助十郎が「優雅だ」と云ったのはそういうところをさしたのであろう。見馴れるにつれて、その間伸びのした動作や口ぶりが、こちらの気持までゆったりとおちつかせ、なごやかにさせるようであった。初めに吉塚夫妻、次に家士や小者たち、そして勘解由までが彼女に惹かれたのも、そういう点に魅力を感じたからに相違ない。父がふさを相手に、飲みながら話し飽かないようすは、みるからにたのしそうで、正四郎は思いがけない孝行をしているような、誇りかな気分を味わうのであった。
十月下旬、信濃守景之は参覲で出府し、勘解由もその供をして去ったが、出立のまえの日に訪ねて来て、ふさに「世話になった」とかなり多額な餞別を与え、また正四郎を呼んで、ふさを大事にしろと云った。
「おまえなどには勿体ないような嫁だぞ」と勘解由は云った、「――こんど来るときには孫の顔を見せてくれ」
七
勘解由にはもう孫が一人あった。江戸にいる長男、幸二郎の子で鶴之助といい、もう三歳になったのである。したがって、「こんど来たときは孫の顔を見せてくれ」という言葉はふさに対する愛情の深さを示すものだ、と正四郎は思った。