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そのきどをとおって
その木戸を通って
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1959(昭和34)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,448 字 · 44 页
九
半ば失望し、半ばほっとしながら、正四郎は毛氈のほうへ戻った。
正四郎はまた暫くのあいだ、ひそかに妻を監視することで神経を疲らせたが、かくべつ変ったこともなく、その年は暮れた。
九
明くる年の三月、――例年の勘定仕切が始まり、正四郎は監査のため、終りの五日は城中に詰めきった。その三日めのことであるが、午の刻ちょっとまえに、家扶の吉塚が面会に来た。城中に詰めているときは、私用の出入りは禁じられていたが、「急用」ということで取次がれたらしい。ゆかが病気にでもなったのかと思いながらいってみると、吉塚助十郎は西ノ口の外に蒼い顔をして立っていた。
――ふさだな。
正四郎はそう思った。家扶の硬ばった蒼白い顔が、妻になにごとか起こったことを示しているように感じられたのである。吉塚は眼を伏せながら、そのとおりだと云った。
「どうしたのだ、病気か」
「お姿がみえないのです」と吉塚は云った、「昨日の夕方のことですが、ゆかさまと庭にいらしって、そのままどこかへ出てゆかれたらしく、お捜し申したのですがいまだに行方がわからないのです」
いよいよ来たな、と彼は思った。予期していたことが現実になった、という感じがまっ先に頭にうかんだ。