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とうげのちゃや

とうげの茶屋

小川 未明

「新児童文化 第2冊」1947(昭和22)年9月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 6,035 字 · 12 页

青空文庫

この、のどかな、ゆったりとした気持ちは、おじいさんと向き合う山も同じでありました。黄・紫・紅と、峰や谷が美しく彩られていました。そして、まんまんと、青く澄みわたる空の下で、静かに考え込んでいるように見えました。こうして、いい天気のつづく後には、冬を迎えるすさまじいあらしがくるのを、あらかじめ知らぬのではないけれど、すぎし日の、春から夏へかけての、かがやかしかった思い出に、心を奪われて、短い日ざしのうつるのを忘れているのでした。まして、このとき、おじいさんと山の静かな心持ちを破るものは、なにひとつなかったのです。

ところが、ある日、こんなうわさが、茶屋で休んだ村の人から、おじいさんの耳へはいりました。

「おじいさん、ここへ、このあいだ、あめ屋さんが寄って、たいそう酔ったというじゃないか。」

「ああ、いい気持ちで、帰らした。」と、おじいさんは、にこにこして、答えました。

「どうりで、きつねにばかされたって。なんでも、一晩じゅう林の中で、明かさしたということだ。」

「えっ、あめ屋さんがかい。」と、おじいさんは、びっくりしました。

「町へいく道へ出ようと思って、おなじ道をなんべんも、ぐるぐるまわっているうちに、目がさめると、西山の林の中で、寝ていたというこった。