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どぶろくげんそう
どぶろく幻想
豊島 与志雄
「群像」1952(昭和27)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,452 字 · 21 页
。千代乃は恐らく逆上の態で、とっさに毒を呑んで逃げ出し、そして草原で死んだ。
「純情といいますか、判断力が乏しいといいますか、可哀そうです。」
周さんは卓子に顔を伏せて、またも泣くのだった。
だが、俺の頭には、千代乃さんの死がさほど深刻なものとは映らなかった。人おのおのの立場によるありふれたものとさえ思えた。何かのきっかけに依るもので、例えば、一足踏み外して階段から転げ落ちるようなものじゃないか。
実のところ俺は、死というもの、自殺というものを、漠然と考えていたのだ。漸く探りあてた一筋の人の心の誠実さ、真心が、ごく些細なことのために壊れかけるのを、見てきた。それが壊れ去った後は、人は完全に孤独だ。その孤独の中では、自殺も無理なくしぜんに行なわれる。場所と方法も自由に選択出来る。ぎりぎりの切羽つまった、どうにもならないものではない。
今日見た線路の輻輳地帯、いつもと違った道筋を取ったので初めて見たのだが、あすこでも、人はいつでも死ねる。一歩誤れば否応なく轟々たる車輌に轢かれる。だが、俺はあんなところで死にたくはない。だからぞっとして引っ返した。
俺の頭にはいつとはなく津軽海峡が浮んでいた。