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なよたけ

なよたけ

加藤 道夫

「三田文学 四・五月号、六月号、七・八月号、九月号、十・十一月号」1946(昭和21)年5月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,415 字 · 163 页

青空文庫

……ただ、父親としてそれを知っておいた方がいいと思うのだ。

間――

衛門 それでは、旦那様。手前、存じているだけのことは申し上げてしまいますが、文麻呂様は御自身でもかたく口をつぐんでおられますので、詳しいことは手前とても皆目存じませぬ。……とにかく、これは旦那様の胸の内にだけそっとたたんでおいて下さりますようにお願い致しますぞ。……(声を低めて、静かに語り出す)実は、文麻呂様の心を惑わしたのは、年若な賤しい田舎娘なのでございます。讃岐ノ造麻呂と言う竹籠作りの爺の娘で、これが大変な器量よしで評判でございました。手前、その造麻呂という爺とは、ちょっと知り合っておりました関係上、その娘にも幾度か逢ったことがございますが、文麻呂様が夢中になるのももっともなほど、身分に似合わず、素直で、仲々見所のある娘でございます。ところが、その娘に、旦那様、人もあろうにあの大伴の大納言様が眼をつけましてな、例の手管で物にしようとなさっているのが分ったのでございます。さあ、文麻呂様がそれを聞いて、黙ってはおられません。大納言様の道ならぬ色恋沙汰を世間に振りまいて、これを機会に思い切り懲らしめてやろうと、そう決心なさったものでございます。