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なよたけ
なよたけ
加藤 道夫
「三田文学 四・五月号、六月号、七・八月号、九月号、十・十一月号」1946(昭和21)年5月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,415 字 · 163 页
……しかし、もうお前は立派に一人前の男のはずだ。儂がいつ死んでも立派にひとりで生き抜いて行ける一人前の男になっていると思っている。……儂はな、文麻呂。人間の運命と云う奴は、実に不思議なものだと思うのだよ。儂が都からここへ左遷されると聞いた時には、まるで島流しにでもされるような気になってずいぶん心細い嫌な思いをしたものだが、どうだ、ここへ来てみると、もうあんな不愉快な都へなんぞ二度と足を踏み入れる気がしなくなってしまった。ここへ来て、儂はまるで死場所を得たような気持がするよ。こうして、遥かな東国へ来てみると、あんなごみごみした、愚劣な人間達の寄り集っている狭っくるしい都の中で、なんでまあ、あのように浅間しく名声なぞと云うものにこせこせ執着していたのだろうと思ってなあ。まるで、夢のような気がするよ。やれ、位が一つ上ったと云っては鬼の首をとったように大騒ぎをして喜んでみたり、やれ、大伴の大納言は一生の敵だなんぞとむきになって憎んだりしていたあの頃の自分がまるで嘘のように馬鹿馬鹿しく思われて来るのだよ。本当に儂はもう一生あんな馬鹿げた所へは帰りたくなくなった。