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なよたけ

なよたけ

加藤 道夫

「三田文学 四・五月号、六月号、七・八月号、九月号、十・十一月号」1946(昭和21)年5月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,415 字 · 163 页

青空文庫

文麻呂 何だい。気持が悪いね。……それに? どうしたって云うんだい?

瓜生ノ衛門 へえ、誠に気恥しくて申し上げにくい話なんでございますが、……実は手前……瓜生の里には四十年前に云い交した許婚がひとり待って居るんでございます。

文麻呂 許婚?

瓜生ノ衛門 へえ、まあ、そのような……へ、へ、へ、へ、へ、……

文麻呂 おい、おい。衛門。お前もなかなか隅には置けないね。六十八にもなって許婚とは……さすがの僕も恐れ入っちゃった。それじゃ、まあ、惚け話の花でもひとつ咲かせてもらおうかい。

瓜生ノ衛門 いや、お坊ちゃまの方から先にそう開きなおられると、せっかくの花も蕾んでしまいます。………実を云えば、手前、若気のあやまち、とでも申しましょうか、……今から四十年前の昔でございます。手前がまだ瓜作りをやっておりました時分、ふとした浮気心から云い交した娘がございました。と云いましても、名前も顔もはっきりとはとても浮ぶ瀬もない冥途の河原。……何分遠い昔の想い出話でございますでな。手前は父上様にお仕え申す身になって四十年。……華やかな平安のみやびの中であのようにしあわせ過ぎる位の身の上でございましたもので、そんな娘のことなぞすっかり忘れてしまっておりましたのです。