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なよたけ
なよたけ
加藤 道夫
「三田文学 四・五月号、六月号、七・八月号、九月号、十・十一月号」1946(昭和21)年5月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,415 字 · 163 页
………あるところに、心まずしい哀れな男がひとりいたのです。……身はやんごとない家柄に生れは致したものの、空しい孤独の男でした。……侘し過ぎました、あまりにも侘し過ぎました。………
琴の音。
下人の憧れる、華かな詩歌管絃の宴も、彼にとっては何でしたろう? 移ろい易い栄華の世界が彼にとっては何でしたろう? 花をかざして練り歩く大宮人の中に、ただ彼のみは空しくもまことのこころを求め続けていたのです。美しい夢を追い続けていたのです。
琴の音。
(夢みるように)……遠い、遥かな夢の野に、あてどもなく、涯しもなく、ただ彷徨いあるく彼でした。………
うつせみの世は
花まごうみやびとに
まことのこころ
いかでもとめむ……………
苦しい旅路でした。耐え難くもすさぶ心を抑えながら、昨日は西、今日は東とさすらい求めていたのです。本当に苦しい、それは忍従そのものでした。
琴の音。
(次第に激して行く)それが、どうでしょう。ねえ、お爺さん、とうとう報いられたのです。今こそ、まことのこころを持った女にようやく廻り逢うことが出来たのです。本当に永い苦労の仕甲斐があったと云うものです。その女こそ、彼が永い間、探し求めて止まなかった理想の妻だったのです。