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なよたけ

なよたけ

加藤 道夫

「三田文学 四・五月号、六月号、七・八月号、九月号、十・十一月号」1946(昭和21)年5月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,415 字 · 163 页

青空文庫

……それは、まるで白菊のように清らかな女でした。輝やかしい姫君でした。彼は夢中になりました。我と我が心を失ってしまいました。……ねえ、何の不思議がありましょうか? その女を得られなかったら、それこそその男は生きて行くことすら出来なかったのですよ? その男は命を賭けて愛を求めたのですよ?

琴の音。

造麻呂にはどうも話がぴんと来ぬらしい。

御行 (極度に勿体をつけて)ねえ、お爺さん、………その男が一体誰であったか御存知ですか?

造麻呂 いんえ。

御行 (きわめて厳然と)大納言、大伴ノ宿禰御行。………

琴の音一段と高らかに。

造麻呂 は?

御行 大納言、大伴ノ宿禰御行……私です。

造麻呂 (はっとしたように、その忍びのいでたちをした御行の姿を打ち眺める)

御行 (なにやら勝ち誇ったように)……私なのです。……

琴の音。

造麻呂 (次第次第に平伏して行く)……それは、それは……ちっとも存じ上げませんでした。……何と云う勿体ないことでござりましょう。大納言様でいらっしゃいましたか?………このような人里離れた下人の賤が家にしげしげとお通いなさる御方が、よもや大納言様でいらっしゃろうとは、この爺め、夢にも考えてはおりませなんだ。