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なよたけ

なよたけ

加藤 道夫

「三田文学 四・五月号、六月号、七・八月号、九月号、十・十一月号」1946(昭和21)年5月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,415 字 · 163 页

青空文庫

それをみんな弁えないで、ただもう、あたり前の習慣だ位の気持でくっつけているから、その弱みにつけ込んで、わざわいがふりかかって来るのだ。だから、やれ、西の空に「ふそう雲」が現れたと云ってはうろたえ、「ほこ星」が光り始めたと云っては、恐ろしがる。それでは、この当世に生きる者として、誠に不甲斐のない話ではないか。云わば我々陰陽の道にたずさわる者は、そう云う迷える魂を、現の正道に引戻してやろうと云うわけなのだ。

男10 (突然、立止って耳を澄まし)先生!……あの声は、あれは一体何でございましょう?

右手奥の方から、多勢の行者達の魂ごいの行の呼ばい声が不気味に聞えて来る。

たくさんの鈴の音が、ちゃりんちゃりんとそれに調子を合わせて、何やら幻妙な響きを遠くから伝えて来る。だんだん明瞭に聞えて来る。

吐菩加美 ほッ 依身多女 ほッ

吐菩加美 ほッ 依身多女 ほッ

吐菩加美 ほッ 依身多女 ほッ

吐菩加美 ほッ 依身多女 ほッ

男9 おう。……あれは魂ごいの験者どもが、どこぞの山へ、山籠りの行に出掛けて行くのだ。誰やら神隠しにでも遭うた人々のあくがれ迷う魂を尋ねて、山へ呼ばいに行くところなのだ。