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なよたけ

なよたけ

加藤 道夫

「三田文学 四・五月号、六月号、七・八月号、九月号、十・十一月号」1946(昭和21)年5月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,415 字 · 163 页

青空文庫

僕はそれを見ていて、何だか全身がぞっとして、総毛立って来たよ。あれは恋などと云う生やさしいものではない。あれはもはや狂気だ! 恐るべき精神の錯乱なんだ! そうかと思うと今度は、また行方も分かぬ虚空の彼方に眼をやって……

小野 (突然、右手を見)あ、やって来た!……しーッ。

清原 (右手を見、急に狼狽し始める)……小野、僕は失敬する! 頼む! あいつにそう云ってくれ! あいつは何をしでかすか分りゃしない! あんな奴と行動を共にするのはまっぴら御断りだ! 僕あもう今日限りこんな大それたことは本当に止めた! 僕はあいつとは、もう手を切った!

左方へ逃込み、退場。

小野 おい! 待て! 待て! 清原! 待てと云うのに!……行ってしまやがった。……

石ノ上ノ文麻呂が右手に現れた。

先ほどの粗末な下人の装束で、何やら抑え難い血気が身内にみなぎっている様子である。舞台の右方に立ち、遠くから小野ノ連をきっと凝視める。

文麻呂 おう。小野ノ連ではないか!

小野 俺だ!

文麻呂 何だ。君も来ていてくれたのか?……小野! いよいよ待ちに待った今日のこの日だ!

小野 おめでとう!

文麻呂 用意万端は既にととのった!