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ばちあたり
ばちあたり
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1960(昭和35)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,391 字 · 44 页
敗戦後の約五年間が、窮乏と不安と狂騒の生活だったことは、私たち家族も一般の例からもれるものではなかった。啓三が復員し、姉の一家が戻り、私は母校の教授に推されていまの病院に勤め、同時に結婚をした。――敏夫は母と郷里に残って、私と同じ高校に進み、そこを出ると、県庁のある市に新設された大学へはいった。
――ばかなやつだ、学校なら東京へ出て来ればいいじゃないか。
啓三はそう云っていたが、そんなことには関心がないのだ。彼自身は学徒動員で取られたので、復員したら学校を続ける筈であった。財産税その他で私たちもはだか同様になっていたが、まだ弟たちを学校へやるくらいのことはできた。というのは、父が生きていたころ、郷里の友人にかなり多額な金が貸してあった。池田平二郎という人で、現在は県会議員をしているが、その事業がうまく当り、戦争が終った直後からめざましく発展し、その業界では県下で五人の内にかぞえられるようになった。――こういう関係で、池田から償還される金があり、いまでも(母のほうへ)続いて送られているのだが、啓三は学校に戻る気などなく、ブローカーのような仕事にとりついて、むやみにいそがしがっていた。