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ばちあたり
ばちあたり
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1960(昭和35)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,391 字 · 44 页
四
姉は泣きだしていた。
四
敏夫はおどろくほど変っていた。体も顔も痩せ細って、かさかさに乾いた皮膚が骨へじかに張りついているとしかみえない。かなり悪化した消耗性疾患の患者のようで、眼だけが際立って光っていた。
姉から順に、母の死顔を見、死んだ唇を水でしめした。母の死体は死んだままで、あとの処置はなにもしてないらしい。顔には白い晒木綿が掛けてあるが、枕許には燈明や線香をあげる支度もできていなかった。――家は勝手のある広い土間と、炉のある八帖と、母の部屋の六帖の奥に四帖半があるだけで、水道もないし、煮炊きは古風な竈でするようになっていた。
「どうして」と姉の尖った声が聞えた、「どういうわけなの」
私はまだ母の枕許に坐っていた。姉と啓三は先に立って炉の間のほうへいったが、すぐに敏夫と始めたようすである。湯灌をしたかどうか、寺へ通知したか、どうして香や燈明をあげないのか、くやみに来る客の用意はどうする、というようなことを、姉はいつもの調子で追求し、敏夫はそれをみんな突っぱねていた。
「これはおふくろとぼくで話しあったことなんです」と敏夫は云っていた、「ほとけ臭いことはいっさいやらないからって」